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風景写真家・松井章のブログ

『南米力と沖縄愛』を読んで:海を越えて受け継がれる故郷とは

『南米力と沖縄愛――日系16人のライフヒストリー』(ボーダーインク/著者・漢那朝子さん)

『南米力と沖縄愛――日系16人のライフヒストリー』(ボーダーインク/著者・漢那朝子さん)を読みました。

日系移民の記録というよりも、今も続くドラマを垣間見るように感じました。
日系2世・3世の人々にとって、南米と沖縄、二つの土地のアイデンティティ(所属意識)の間で、少なからずみなさんそれぞれが揺れ動いているでしょう。
南米から沖縄に移住してきた人々の声を通して、「故郷とは何か」「自分のルーツとは何か」を静かに問いかけてくる一冊です。

本書に登場するのは、ボリビア、ペルー、アルゼンチン、ブラジルなどにルーツを持つ日系二世、三世の16人。著者の漢那さんが一人ひとりに丁寧な取材を重ね、その人生や家族の歴史、沖縄への思いを記録しています。

ボリビア日本人移住地を歩いて実感した、人と人との距離の近さ


ボリビア東部のオリエンテ地方、アマゾンの僻遠には戦後に日本人が築いた2つの日本人移住地があります。
サンファン移住地は本州の方が築き、オキナワ移住地は文字通り沖縄県の方が築きました。

オキナワ移住地を歩いて感じたのは、沖縄県的な空気が漂うことです。
ウチナーンチュ精神というものを軸に、団結する沖縄というものを感じたものです。

そして本州から来た私にもとても温かいところも、まさに沖縄的です。

日本人移住地の人々は、日本語を話し、スペイン語も話し、2つの言語を織り交ぜて暮らしていました。オキナワ移住地の人々にとっては、もっと大事なのがきっと「ウチナーグチ(沖縄語)」です。

南米の社会や文化の中で生きながら、家庭では祖父母から伝えられた沖縄の料理や言葉、音楽、価値観を受け継いでいる。そこには、どちらか一方を選ぶのではなく、二つの文化を自分の中にしなやかに抱えて生きる。

本書を読みながら、オキナワ移住地で実際に出会ってきた人々の表情や声を、何度も思い出しました。

「沖縄愛」は国境や血縁を越えていく

本書の大きなテーマの一つが、世界各地の沖縄人(ウチナーンチュ)を結ぶ強い連帯感です。

登場人物の方たちは、沖縄に行った経験、祖父母から聞いた話、三線や琉球舞踊、ウチナーグチなどを通して、自らのルーツと向き合っています。

中には、沖縄を訪れた際の「おかえりなさい」という言葉に涙した人もいます。生まれ育った場所ではない。それでも、自分を迎え入れてくれる故郷が海の向こうにある。その喜びは、私たちが想像する以上に深いものなのでしょう。
印象的なのは、沖縄への思いが、必ずしも血縁や出身だけに限定されていないことです。
沖縄の文化や人々を愛し、その精神を大切にする人もまた仲間ではないのかという、「いちゃりばちょーでー」という精神でし。本書に登場する人の言葉からは、人と人をつなぐ温かい姿勢、人間愛のようなものが伝わってきます。

苦難の歴史だけでは語れない「南米力」

南米への移民の歴史を考えるとき、私たちは「苦難」に目を向けがちです。
もちろん、本書の登場人物たちの人生も決して平坦ではありません。幼い頃から働き続けた人、家庭の問題に苦しんだ人、いじめや文化の違いに直面した人もいます。

しかし、本書に描かれているのは、苦労だけではありません。置かれた状況を受け入れ、笑い、人を助け、音楽を奏で、新しい仕事や表現を生み出していく。その明るさとたくましさこそ、タイトルにある「南米力」なのだと思います。

日系2世・3世の人々にとっては、また感じ方は異なり、のびのびと育ったと思い出を語る方も多くいます。

南米を旅していると、予定通りに物事が進まないことも少なくありません。それでも、人々はその場の状況を受け止め、冗談を交わしながら前へ進んでいきます。

厳しい現実の中でも、人とのつながりを失わない。人生を深刻に捉えすぎず、それでいて粘り強く生きていく。その姿勢は、私自身が南米の人々から何度も教えられてきたことでもあります。

一人ひとりの人生から、移民の歴史が見えてくる

歴史を年表や数字だけで理解しようとするのは難しいです
一人の人間が、どこで生まれ、家族から何を受け継ぎ、どんな言葉を話し、何に悩み、どのような道を選んだのか。
本書では、16人の具体的な人生を読むことによって、南米と沖縄を結ぶ大きな歴史が見えてきます。

ボリビアの日系社会で育った人、ペルーから沖縄へ渡った人、アルゼンチンで芸術や舞踊に取り組む人、ブラジルでウチナーグチを伝えようとする人。それぞれの人生は異なりますが、その根底には、家族から受け取ったものを次の世代へつなごうとする思いがあります。

写真を撮る仕事も、突き詰めれば、一人ひとりの人生や、その土地に刻まれた記憶と向き合うことです。

本書の文章からは、漢那さんが相手の言葉を急いで結論づけるのではなく、その人が歩んできた時間を尊重しながら聞き取っていることが伝わってきました。だからこそ、登場人物の声が生き生きと響きます。

南米に関心のある人にも、沖縄を愛する人にも

『南米力と沖縄愛』は、南米や日系人の移民史に興味がある人だけではなく、沖縄に関心のある人にもぜひ読んでいただきたい一冊です。

南米のたくましさと、海を越えて受け継がれる沖縄への愛。
それが伝わる、温かく、力強い一冊です。

『南米力と沖縄愛――日系16人のライフヒストリー』
著者:漢那朝子
発行:ボーダーインク
四六判・336ページ
定価:2,420円(税込)
2025年5月20日発行

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明日はギャラリートーク(作品解説)を開催します|写真展「アルパカ」

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