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風景写真家・松井章のブログ

【北海道ニセコ】曽我北栄環状列石から想像する縄文時代

世界遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」

「北海道・北東北の縄文遺跡群」は7月27日にユネスコの世界文化遺産に登録されることが決まりました。
国内の文化遺産で「紀元前」の遺跡は初めてとなるそうです。

登録された遺跡は、青森県の三内丸山遺跡や秋田県の大湯環状列石、北海道伊達市の北小金貝塚など、本州と北海道にまたがる大きな範囲です。

北海道ニセコ町:曽我北栄環状列石


世界遺産に登録された遺跡は17個ですが、縄文時代をルーツとする遺跡は周辺のあちこちで出土しています。

北海道のニセコ町にある「曽我北栄環状列石」はとても印象的な遺跡でした。周囲は畑に囲まれていて、羊蹄山を望む草原にあるとても小さな遺跡です。環状列石とは“ストーンサークル”のことです。

草原と広大な畑が広がる風景には気持ち良い風が吹き、昭和24年にこの遺跡を発掘した東京大学の駒井和愛教授は「遺跡付近の景観はなんとなくハイラル草原を忍ばせる懐かしいものであった」と言ったそうです。ハイラルとは内モンゴルの大草原のことで、北海道の風景が併せ持つ大陸的な雰囲気をきれいに表現されたのだと思います。
実際に、氷河期に最初に北海道に来た人々は沿海州からやって来たと予測され、もともとは北海道と大陸は地続きであったからです。

この周辺は、明治時代から昭和初期にかけて「曽我農場」というニセコ最大の農場の一部でした。一つのコミュニティほどの規模の大農場であったことから、今は地名として「曽我」が残っています。

曽我北栄環状列石は、昭和初期に農場の開墾作業の中で発見されました。その後の発掘によって、この遺跡は約3000年前、縄文時代後期の墓地ではないかと考えられています。
このように何らかの意図をもって、大小の石を並べた遺跡を「配石遺構」と呼びます。縄文文化では、主に墳墓としての役割で、縄文時代後期の遺跡がほとんどです。

遺跡の発掘調査では、1~2mの穴が見つかっています。中からは、ヒスイの飾玉や縄文土器、そして人骨が発掘されました。ヒスイの玉(ぎょく)は、死者を弔う副葬品と考えられています

遺跡からうかがい知る縄文の息吹


縄文時代は、16000年前から約3000年ほど前まで続いた時代です。縄文時代が始まる時代は氷河期の最後の時期で海水面が低く、大陸と北海道がサハリン周辺で地続きであったために人々は北から移住してきました。旧石器時代と縄文時代の境目となる時代です。

氷河期が終わり温暖化が始まると、日本列島は大陸から孤立して、独自の文化の縄文時代が1万年以上も続いたのです。

縄文時代の遺跡からは“武器”や“権力の象徴”が見つかっていないために、縄文人は戦争を知らない平和な人々で社会も平等であったと考えられています。人々が争わずに生活できるほどに自然の恵み(森や海)が豊富である一方、縄文人の「精神文化」もまた平等や共有を基本として豊かであったことがあるのでしょう。
縄文人の遺物として出土するのは、権力の象徴ではなく、装飾品や祭祀の道具、そして生活の糧を得るための道具です。

実際に縄文時代に発掘される遺構からも、集団間での土地や資源をめぐる争いの跡は見つかっていないのです。

縄文時代が1万年以上も続いた秘訣は、富を私有するという概念が無かったことによるのでしょう。そして、そのような豊かな精神文化を育むだけの自然の恵みを「狩猟・採集」の生活から得ることができたのです。

縄文時代の同時期の世界を見れば、絶対権力による古代文明が各地で花開いていましたが、縄文時代のような平和で長い文明は特異な存在であったと言えるでしょう。

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