
目次
聖なるサハマ山とアルパカの暮らし

ボリビアのアンデス高原には、山岳民族アイマラ族の人々が暮らしています。
彼らにとって山は、単なる地形ではありません。暮らしを守る聖なる存在です。
サハマ山は、その高原に静かにそびえています。
巨大なモノリスのように、黙して語らず、ただそこに在ります。
この高原は、古くからアルパカの放牧地でもありました。
山頂を覆う氷河はゆるやかに溶け出し、山麓へ安定した水をもたらします。その水が草原を潤し、栄養豊かな牧草を育てます。厳寒の地にあって、サハマ火山は命を支える水源でもありました。

文字による記録はほとんど残っていません。しかし、この地に暮らす人々は、はるか遠い祖先の時代から続く営みだと語ります。
わずか四十年ほど前まで、舗装道路の整っていなかったボリビアでは、サハマ山麓で育てたアルパカを連れ、何日も歩いて町へ売りに行くのが日常だったそうです。
アイマラ族は、山を「アプ」と呼びます。
精霊が宿り、人々の暮らしを見守る存在です。
山が氷河を抱き、水を与え、豊かな草原はアルパカやキヌアを育てることを、人々は理屈ではなく身体で理解してきたのでしょう。

山麓を歩き、アルパカの群れを探していると、音はほとんどありません。
聞こえるのは、自分の足音と風の擦れる音だけです。立ち止まり耳を澄ませると、人の時間ではない、地球そのものの時間が流れていることに気づかされます。
隆起する大地と氷河がもたらす水。
その循環のなかで、アルパカは静かに草を食んでいます。
サハマは、アルパカと人の暮らしを静かに見守る山です。


























