
アンデス高原の草と水
アンデス高原の環境に適応したアルパカは、限られた草という資源を持続可能なものにしています。
であっても、土地が支えることのできる頭数には、限界があるでしょう。
アルパカは一日の多くの時間を草を食べて過ごします。
一頭一頭が食べる量はそれほど大きくなくても、それが数百頭という群れになれば、消費される草の量は決して小さくありません。
もし植生が回復する速度よりも採食する速度の方が速くなれば、草地は少しずつ弱っていきます。
同じ場所に多くのアルパカが集中すれば、アルパカの身体が環境への負荷を抑える特徴を持っていたとしても、過放牧は起こり得ます。

そして、アルパカが生きる乾燥した高原で、何より重要なのが水です。
アンデス高原には、「ボフェダル(bofedal)」と呼ばれる高地湿地が点在しています。乾燥した草原の中に現れる緑豊かな湿地で、アルパカにとって非常に重要な放牧地です。
このボフェダルを支える水の由来は場所によって異なります。
地下水によって維持される場所もあれば、雨や雪解け水、氷河からの融解水も重要な水源地になります。
一方、アンデスでは温暖化に伴う氷河の後退が続いています。氷河が小さくなると、短期的には融解水が増えることがあっても、長期的には乾季に供給される水が減少する可能性があります。

さらに、降水パターンの変化や干ばつが重なれば、高地湿地や草原の水環境にも影響します。干ばつが長期化すれば、草地の劣化や乾燥化が進む可能性もあります。
アルパカにとって、「草」と「水」は切り離すことができない関係にあると言えるでしょう。
水が減れば湿地が縮小し、食べられる草が減る。草が減れば、残された放牧地にさらに多くのアルパカが集中する。すると、今度は過放牧が起こりやすくなる。
いくつもの要因が連鎖しているのです。
私は実際にアンデスでは、撮影をしながら、アルパカの放牧を手伝うこともあります。
そうしながら、いくつかの家族の暮らしと放牧地を見てきました。
そこで感じるのは、同じアルパカ放牧でも、その家族が暮らす土地によって条件がまったく違うということです。
広い土地を持ち、放牧場所を大きく移動させる遊牧民のような家族もいれば、限られた範囲の中で群れを養わなければならない家族もいます。
土地が狭ければ、毎日少しずつ放牧ルートを変えたとしても、草地が支えることのできる頭数には限度があります。
実際、季節によって生活拠点そのものを移しながら、放牧を続けている家族がいます。
草や水の状態を見ながら、人もアルパカも移動する。
それは、限られた高原の資源を使い尽くさずに暮らしていくために、長い時間をかけて培われてきた知恵でもあります。
その一方で、広大な草原を使い、一年を通してほぼ同じ場所で暮らしている家族もいます。
しかし、土地が広いからといって、必ずしも条件が良いわけではありません。
湿地「ボフェダル」が少なく、乾燥した草原がどこまでも広がっている土地もあります。
面積だけでは、その土地が何頭のアルパカを養えるのかは判断できません。
草の種類、水の量、湿地の有無、季節ごとの降水、そして群れの頭数。それぞれの条件が重なって、その土地の放牧のかたちが決まっています。
アルパカと人々の暮らしを追っていくと、その背後には、草、水、氷河、湿地、アルパカの頭数、そして土地の広さという、互いにつながり、絡み合う関係が見えてきます。
アルパカは、アンデスの自然に見事に適応して生きる動物であると同時に、いまこの地で起きている環境の変化を、私たちに見せてくれる存在でもあるのかもしれません。




























