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風景写真家・松井章のブログ

【スペイン語のルーツ】「Adiós」で考える、ローマ帝国とラテン語の歴史

ヨーロッパの言語の特徴:グラデーション状に変化?

ヨーロッパの言語を見ていると、「グラデーション」のようだと常々感じています。
島国の日本では、漢字の伝来を除き日本語はほぼ独自の進化を遂げたので、海を隔てた隣国とはまったく異なる言語です。

しかし、ヨーロッパでは常に相互に影響している歴史から、特に南ヨーロッパでは言語はグラデーション状に徐々に変化していくのです。

たとえば、マドリッドからイタリアのローマまでを見てみると、言語の変化はまさにグラデーション状の遷移と分かるのではないでしょうか。

スペイン語と一言で言っても、マドリッドの「カスティージャ語」から始まり、東のバルセロナ周辺には「カタルーニャ語」が話されます。さらに東へ国境を越えたフランスでは、フランス語も同じく幾つもの方言に分かれ、南フランスでは西から「ラングドック語(南オック語)」「プロヴァンス語(南オック語)」が話され、これらはフランス語とは言ってもスペイン・カタルーニャ語の一つにも数えられます。
さらに東に国境を越えてイタリアに入ると、北部イタリア語の諸方言、中部イタリアのトスカーナ語、そしてローマのローマ方言に至ります。
マドリッドからローマに至るまで、いくつもの言語(または方言)の変化はまさにグラデーションであり、言語それぞれには断絶が無いのです。

この言語の根っこにあるのが『ローマ帝国』であり、「ラテン語」が全ての基礎となっています。

「Adiós」が含む重たい意味

スペイン語の単語「Adiós=アディオース」が、“さよなら”を意味することはスペイン語を話さない人でも知るほどに有名です。

そのことから、スペインや中南米で別れの場面で気軽に使ってしまうこともあるでしょう。しかし、「Adiós」という単語は、「しばらく会わないかもしれない」という場面で使う少し重たい別れの単語なのです。
実際に日本でも「さよなら」を日常で使うことは無いのと同じというわけです。

「Adiós」を分解すると「A」「DIOS」に分かれ、「神の御許へ」を意味します。少し大げさかもしれませんが、本来は「今生の別れ」で使うような単語でした。この単語が形成される時代には、車も飛行機の無い時代であり、「もうしばらく会うことはない」場合には、それが「今生の別れ」になり得た時代なのです。
この別れの言葉には、旅立つ人への祝福も含まれていたのでしょう。

もし日常生活で近いうちにまた会うような場合には、「Chao」「Hasta luego」「Hasta mañana」という単語を使います。

現在でも「Adiós」を言うときには、その相手とはしばらく会わない時などに使われるのです。

「Adiós」という単語を正しく理解するために、言葉の意味と背景を学ぶと良いでしょう。

ラテン語圏で共通する「さよなら」

スペイン語と同じラテン系の諸言語で、“さよなら”はそれぞれ同じように「神の御元へ」を意味します。

ポルトガル語で「Adeus」、フランス語で「Adieu」、イタリア語で「Addio」と言います。

このようにラテン系の言語では、単語が似ているだけではなく文法もほぼ同じであり、兄弟のような言語なのです。
これらの南ヨーロッパの言語の基礎はローマ帝国のラテン語に行き着きます。

ヨーロッパ文明のルーツ:ローマ帝国

ヨーロッパの国々では、今もあちこちにローマ帝国の存在を肌で感じることができます。石の文化のヨーロッパでは、ローマ時代の建築物はたくさん残り、さらにあらゆる文化の背景にローマが横たわるからです。
ローマ帝国は、前身のローマ共和国から数えると紀元前7世紀頃に始まり、紀元前27年から紀元200年頃の約200年間に「パックス・ロマーナ(ローマの平和)」と呼ばれる空前の繁栄期を迎えます。この時代にローマ帝国の版図は南ヨーロッパ全般に広がり、東は東欧のルーマニアまで広がりました。

当時のヨーロッパにおいて、中心部はローマであり、ドイツより北のゲルマン人の支配する地域は、蛮族の支配する辺境地区であり「ゲルマニア」と呼ばれていました。
ローマ帝国はゲルマニアにも大きく影響しましたので、ラテン語の影響はゲルマン系の諸語にも見つけることができます。

ドイツのパック旅行の定番「ロマンチック街道」をよく耳にしますが、本来は「ロマンチック(浪漫的)」ではなく「ローマの街道」です。ローマ帝国はこの街道を使って北ヨーロッパへ進軍したのです。
「全ての道はローマに通ず」というのは事実で、現在の多くの道路の原盤も元を辿ればローマ帝国に辿り着き、その中心はローマであったのです。

現代にも大きく影響している「ラテン語」について


ラテン語とは現在の南ヨーロッパの言語のルーツであり、現在は文語として残っています。

ローマ数字は今でもよく目にする機会がありますし、植物や生物の学名などはラテン語が使用されています。ラテン語は今では権威ある言葉として、特に学問の世界で文語として使用されているのです。
また、バチカン市国ではラテン語が公用語です。

ローマ帝国の時代に話されたのがラテン語であり、今日のヨーロッパ世界でも厳然と大きな影響力を持っているのです。

「Adiós」のルーツ:西ローマ帝国

ローマ帝国の時代、“さよなら“は「VALE(ワレー)」でした。「Adiós」とは全く異なる単語です。
現在の南ヨーロッパの言語に分化したのは、西ローマ帝国が発端ですので、この時代のラテン語まで辿ると「Adiós」が少しづつ見えて来るでしょう。

ローマ帝国の最盛期が終わり、キリスト教(カトリック)が徐々に勢力を増す中で、紀元395年にローマ帝国は東ローマ帝国と西ローマ帝国に分裂します。ローマ以西を治めたのが「西ローマ帝国」であり、いま南ヨーロッパで話される言語(ロマンス諸語)の直系の先祖と考えることができそうです。

この西ローマ帝国の時代はわずか100年ほどの短命で、ラテン語は地域ごとに方言として分化を強め、現在の南ヨーロッパの諸言語へと発展したのです。

「Adiós」とキリスト教の関係性

「神の御許へ」を意味する「Adiós」は、キリスト教の思想から生まれました。ラテン語を基礎とする南ヨーロッパの諸言語で、ラテン語と異なる「さよなら」が普及したのは、「西ローマ帝国」というローマ帝国の崩壊の時代を象徴する事象と言えるかもしれません。
キリスト教が表舞台に出る前の、ローマ帝国の全盛の時代までは「多神教」であり、その影響はギリシャ神話の影響を受けていたようです。

「神の御許へ:Adiós」という発想は、キリスト教という当時では新しい「一神教」から生まれたのです。

第266代ローマ教皇のフランシスコは、「Adiós」の本来の意味を説いています。
講話の中で、「Adiós」は日常的に使う言葉ではなく、自分の親しい人々の行く末を神に託して、自らがこの世を去る時に使うのが本来の「Adiós」であると説きました。
それはまさに今生の別れに言う、祝福の言葉です。

“Pablo encomienda a Dios a los suyos, y Jesús encomienda al Padre a sus discípulos, que quedan en el mundo. Así, ha explicado que encomendar al Padre, encomendar a Dios, es el origen de la palabra ‘adiós’.”
「Papa Francisco: ¿sabemos lo que significa decir “adiós”?(教皇フランシスコ:“adiós”を言う意味を私たちは知っているだろうか?)」https://es.aleteia.org/2015/05/19/papa-francisco-sabemos-lo-que-significa-decir-adios/

「Adiós」が持つ本来の意味、あるいは背景を知ると、どんなときに「Adiós」を使うべきかも理解できるのではと思います。

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